第66回 正倉院展2 漆四合香箱残欠(うるしよんごうこうばこざんけつ)

公開講座に関しては後で触れます。正倉院展は、まだ会期が残っています(〜12日)。これから行かれる人もいらっしゃるかもしれませんので、今回の展示で個人的に印象に残ったものをいくつか紹介します。

右ページ、漆四合香箱残欠

右ページ、漆四合香箱残欠

同じ物を4口組み合わせた、何かの盛器ではないかと解説されています。ヒノキ製で、全面に布被(ぬのきせ)の上、黒漆を塗る。とされています。

そのいわゆるエッジの効いたという表現がぴったりのシャープで軽妙洒脱な形状はすばらしい。写真ではわかりにくいのですが、ごく小さなものです。図録によると、最大辺23.6、高さ6.0センチとなっています。各辺の厚みは、直線部、稜線型部分ともに5厘(1.5ミリ)ほどでした。これが4口そろえば、また違った印象になるとおもいますが、これ単独でも見飽きることはありません。

こうしたものの制作技法を詮索するのは邪道かつさもしい事かもしれません。それでも、やはり気になります。この稜線部もヒノキ製とするとどうやって作ったのでしょう。今風に、ごく薄い板を重ねてプレスして接着したとしても、こうしたくっきりとしてエッジの立った形状にするのは難しいでしょう。削り出しとすれば、目切れの部分が何箇所も出来てこの薄さで完成させる事自体が困難な上に、実用にはならないと思います。考えられるのは、4個のパーツに分けて削り出し、それを接着させる事ですが、当然、今のようなメーカーや木工家御用達の恐ろしげな接着剤などありませんから、漆かニカワでしょう。それを補強する意味もあって布着せを施したとも考えられますが、それでこの薄さできちんと角を出して仕上げるというのはなんとも素晴らしい熟達の技能です。そうした感嘆すべき技能・技法を駆使して、それをさりげなく実用的な器として形にしている。本当に、粋で素晴らしいなと思います。