地蔵峠、上谷

昨年の秋までは、立ち枯れていてもなお「山」の門番として矜持と威厳を持って存在している。そんなふうに勝手に思い入れていたトチの木が、この冬の雪には耐えられなかったか、ついに倒れていた。

RICOH GXR S10 少し暗い林地に入ると、この小さなセンサーでは平たい絵になってしまう。

RICOH GXR S10 少し暗い林地に入ると、この小さなセンサーでは平たい絵になってしまう。

異形と言うべきか。もう少し長い時間のスパンで、土に戻るまで見守り続ける強い意志を持った狛犬のようにも思える。あるいは「泣く女」のピカソがキュービズムの手法で描くと、こんな形としてくれるだろうか。

倒れたミズナラのこぶ。変わらずこちらを睨み続ける。GXR S10

倒れたミズナラのこぶ。変わらずこちらを睨み続ける。GXR S10

どうも近辺で遭難があったらしい。峠の手前まで「○○山岳会」と手書きのステッカーのたくさんの車が乗り付けられていた。下山時には、そこに通常の登山客とは違う雰囲気の団体がいて、こちらの歩いたルートを聞かれる。

「山」の写真

山の写真というと、どうしても決まったパターンになってしまいます。とくに私のようにいつも28ミリ相当の広角単焦点レンズのカメラ(RICOH GXR A12 28mm)を持って行くと、下から幹に沿って見上げた絵か、ひいて広く林地を捉えた絵か。ですから、もうこのブログでの山の写真も飽きられているだろうなとは自覚しております。

そこで、先日撮ってきた目を下に向けた何枚か。

澱みに溜まった落ち葉。ナラ、クリ、ブナ、

澱みに溜まった落ち葉。ナラ、クリ、ブナ、他 RICOH GXR A12 28mm

木はそれぞれ枝をすり合うことはあっても、普通は単独で立っています。それが落ち葉になるとミズナラ、クリ、ブナ、など色々な樹種の葉が仲良く重なり混じり合っているというのは、なんだか見ていて楽しくなりませんか?

瀬に重なってたまる落ち葉

瀬に重なってたまる落ち葉。登山靴が写り込んでいるのはご愛嬌。 RICOH GXR A12 28mm

こちらも見ていて楽しい瀬に重なりあった落ち葉。山には童の神さまがいて、落ち葉をクレープかナンか、あるいはお皿替わりに重ねたりしてママゴト遊びをしている。そんなふうにも見えます。

なぜかここだけで見ることが出来た霜柱

なぜかここだけで見ることが出来た霜柱。最初、季節はずれのギンリョウソウかと思った。 RICOH GXR A12 28mm

ここだけに見られたきれいな霜柱。これも何かのイタズラの跡か仕舞い忘れたおもちゃのようです。

今年最後の「山」

結局、11月の紅葉の時季には「山」に行けませんでした。展示会も終わり、色々な片付けも終わった今日、いつもの山に行ってきました。私は、冬には山には行かないことにしています。そうすると5月の連休までは雪に閉ざされた山には入れません。

展示会前の追い込み時期から風邪気味で、鼻もつまり、終わってからは左の肩が固まって上がらない様な状態になっていました。それでも、山に入ると足取りは軽く、鼻づまりも取れ、肩の痛みもなくなるから不思議なものです。気分的な問題と、それに穏やかな有酸素運動を相応の時間継続することになるのが良いのかもしれません。

もう、もちろん紅葉の季節はとっくに過ぎています。しかし、今日のような穏やかな晴天の日、冬枯れの明るい森の中を赤茶けた落葉をサクサク踏みしめながらの山歩きは、私は好きです。他の人間に出くわさないのもいい。結局、今日は誰にも会いませんでした。県境の峠の手前で、日差しのあたる沢で体が冷え切る前まで休憩して、そのまま戻ることにしました。別にどこそこの頂上を目指すとかいう山行でもありません。雪に埋もれる前にあのブナ、このナラを今年の最後に見たかった。

冬枯れの「山」

冬枯れの「山」 RICOH GXR A12 28mm

倒木も環境と景色を構成する

倒木も環境と景色を構成する  RICOH GXR A12 28mm


さあ、君のことは道を迷わす魔物のように思っていたが本来道標の役を負っていてくれてたのだ。ひとつ残った枝にはまだ、今年も葉をつけていたようだが、既に幹には山の死神がはびこってしまっている。根玉の辺りは虫に食われ始めている。

雷に打たれたブナはまだ立っている

雷に打たれたブナはまだ立っている RICOH GXR A12 28mm

立ち枯れた、弱った木に着くサルノコシカケ類

立ち枯れた、弱った木に着くサルノコシカケ類。森の命の循環は容赦無い。RICOH GXR A12 28mm


こちらの君は、まだ倒れたまま枝を宙に張り出している。いつまで頑張る。どこまでツッパる。それならば、こちらも君が萎れて朽ちて土に臥すまでずっと見届けたいと思うが、どうもこちらが先にヘタリそうだ。

ミズナラ

ミズナラ RICOH GXR A12 28mm

倒れた主を見守るように、近くに高く通直にのびたサワグルミが2本。ごちらもかなりの老兵のようだ。

倒れたミズナラの近くのサワグルミ

倒れたミズナラの近くのサワグルミ RICOH GXR A12 28mm

更に隣にもう1本。

更に隣にもう1本。 RICOH GXR A12 28mm

おこぼれを頂戴してきました

昨日、またへ行ってきました。久しぶりに福井との県境の峠まで足を延ばしてきました。晴天下、ここにこんな良い樹があったのだと言う再発見のようなものもあって良い気分でした。デジカメは持っていったのですが、カードが入っていなかったという良くやる失敗で写真はなし。でも、こうした時はカメラを出したり、構えたり、写り映えの良さそうな景色を探したりというスケベ根性から解放されて、じっくり邪念なく周りの景色や環境を観察出来ます。場合によれば、その中にゆっくり自分の身を委ねるような安らかな気分に浸ることも出来ます。

若い時は、カメラを首からぶら下げ、土産物を物色するような旅行のスタイルが嫌いで、ずっとカメラ自体を持っていませんでした。高校の時の修学旅行でカメラを持参していなかったのは私だけだったような記憶があります。今は、どこかいつもブログねたを探しているようなさもしさを自分で感じる事があります。

さて、今回も3度目で、あのブナの前に行ってしまいました。でも、結局そこが本来の登山道だったというオチなんですが、それはまたの機会にします。

シシや鹿や、その他山の動物たちのおこぼれを頂いて来ました。帰りの林道に架かるコンクリートの橋の上に、なぜかたくさんトチの実が転がっていて、少しばかり気分も高揚して拾い集めていたところ、同行の人からそんなに拾ってどうするのですか?と聞かれます。だって、楽しいじゃないですか!と答えて、自分でその言葉にハッとしてしまいました。それもまた次の機会にします。

頂戴してきたトチの実、クルミ、クリ

頂戴してきたトチの実、クルミ、クリ

設楽町・段戸裏谷原生林に行ってきました

以前から行きたいと思っていた愛知県設楽町の段戸裏谷原生林に行ってきました。

伊勢湾岸自動車道を使って、四日市からいつもの軽トラで2時間ほど。平日で観光シーズンの谷間の時季なので比較的スムーズに行くことができましたが、豊田松平インターから足助と香嵐渓を経由するこのコースは紅葉シーズンの週末では混雑するかもしれません。段戸湖というルアー釣りのための人工湖の脇に駐車場があり、そのすぐ裏側に原生林があります。

原生林の入り口にある段戸湖

原生林の入り口にある段戸湖 GXR A12 28mm

林地自体はあまり広くはなく、また中の林道や登山道がたいへん良く整備されているため、健脚の人であれば半日もあれば一通り森の中を巡ることが出来ると思います。

植生は非常に興味深いものでした。モミ・ツガの林とブナ・ミズナラの林が混交しており、その中でサワラ、ヒノキ、ミズメ、トチ、カエデ、ホウなどの様々な樹種を見ることが出来ます。代表的樹種については標識も付けられているため樹木観察にはうってつけの場所だと思います。立地や環境から、いつも行くのような奥深い神秘感のようなものはありませんが、それはないものねだりというものでしょう。

標識を頼りにモミとツガの識別方法を探ろうとしましたが、樹皮とか樹姿では結局分かりませんでした。強いて挙げると、ツガのほうが若干樹皮が松のように見えるかなとは感じました。

モミ

モミ

ツガ

ツガ

ミズナラも立派な大きな木が見られましたが、ここでもナラガレにやられて立ち枯れのものも多くありました。

ミズナラ

ミズナラ

ブナ

ブナ

その他にも色々な樹種を見ることが出来ました。

サワラ

サワラ

ホウノキ

ホウノキ

「山」に樹を見に行く 5 カツラ

私がこの仕事をはじめた20年ほど前は、抽斗などの内側の側板とか先板の材料といえばカツラが定番とされていました。それで、当然のようにその材料としてカツラを求めましたが、もうその頃は良質のカツラは手に入りにくくなっていました。一度ある偶然で古い柾目の良い材を少量手に入れることが出来たのですが、後はいわゆる性の悪い板目の材ばかりでした。反りや歪みも多く、歩留まりは悪い、木づくりなどの加工も手間がかかる、加工後のくるいも生じやすいなど、良い所はありません。

その頃、インドネシアから入ってきていたアガチスという材が良材が多く、4メートルものの柾目の板がバンドル買いなら立米単価で10万円を切る値段で手に入りました。軽くて加工性もよく、通直で素直な木目の材は、ほとんど抽斗の材として理想的と言ってもよく、当時出回っていたカツラに劣る点はなにもないと思いました。もう、その当時でも木材としてのカツラは枯渇してしまっていたのだと思います。

ちなみに、母親の遺品に嫁入り道具として持ってきたと思われる立派な裁ち台があります。カツラの柾目の一枚板で長さ2,100ミリ、幅500ミリ、厚み36ミリあります。ガキの頃、母親がそれを使って浴衣を縫ったり、あるいは半襟を着けたりしていたのを見たような記憶がありますが、その後はずっと実家の屋根裏に放置されていました。そのせいか少しだけプロペラ状にねじれていますが、大きな反りや木口の割れもなく吸付きさんで嵌められた畳摺りの着いた板足もしっかりしています。少なくとも60年ほど前には、こうした良質のカツラが多少は値がはったかもしれませんが実用品の材として使われていたのです。

最近では、そのアガチスも価格も高騰し、材の質も以前よりは随分悪くなってきました。そこで中国産のキリの集成材などを使っていました。廉価ですが、それなりの物という感じでお薦めできるものではありません。15ミリ厚が定番なのですが、もともと細びきというか定尺を割っていた材が、シーズニングをしている間に12ミリ程になっていた事がありました。

今は、工房齋の齋田さんを通して廃業する桐箱屋さんから譲って頂いた枯れ切ったキリの端材(が、良材です)があるので、しばらくはそれで間に合いそうです。

カツラの巨木 GXR A16

カツラの巨木
RICOH GXR A16

さて、先日近江高島に所用があって出向いたのですが、その時間待ちに山に寄って来ました。そこで、久しぶりに見てきたカツラの巨木です。カツラの巨木というのは、比較的たくさん全国に残されているようですが、いずれもこうしたヒコバエというか根本から分枝したような木が多いように思います。逆に言うと、すっとした木は木材として伐り尽くされてしまったということなんでしょうか。

同じカツラ。モデルは身長187センチ。 GXR A16

同じカツラ。モデルは身長187センチ。
RICOH GXR A16

上の写真は、いつものGXRにA16というズームレンズユニットを付けたものです。倒木の上に置いてセルフタイマーで撮ったのですが、ミラーレス・レンズシャッターだからか、いい加減に置いただけですが特にぶれていません。

吉野に行ってきました 4(終)

如意輪寺から近鉄吉野駅

如意輪寺を出ると再びアスファルトの車道になります。そのまま歩いても面白くなさそうです。少し戻って中千本に出ることも考えましたが、この日はイマイチ体調がすぐれないこともあって、とりあえず吉野駅まで行くことにしました。途中クリの木とかマタタビのツルがありました。クリのイガはまだ青いし、マタタビの実はちょうどいい塩梅でしたが、藪にはヤマビルが群れていそうでやめておきました。

それでも、ちょこちょこ脇道にそれると、やはり信仰の山らしくあちらこちらに石碑やお地蔵さんがあります。吉野駅についたのが13時前。宮滝でバスを降りたのが10時10分くらいだったので、普通に歩いて2時間半ほどのコースでしょうか。如意輪寺駐車場から入る道がしばらく岩場になっており少し急峻ですが、あとはなだらかな坂道です。道中登り降りの起伏も少なく、日も入るし尾根に出れば風も通ります。ハイキングにはいいコースだと思います。ただし、この設定されたコースでは行程の半分以上をアスファルトの車道を歩くことになります。それを森林セラピーとまで称するのはどうかなと思ったりします。

途中見かけた小さな祠 GXR A12 28mm

途中見かけた小さな祠
GXR A12 28mm

山道にあった石碑 GXR A12 28mm

山道にあった石碑
GXR A12 28mm

お地蔵さん GXR A12 28mm

お地蔵さん
GXR A12 28mm

私自身は、上市や宮滝界隈でもっと遊んでおけば良かったと悔やんでいます。あと、近くの津風呂湖温泉というのが、なかなかに汚らしいひなびた趣きのあるところのようで面白そう。季節のよい頃なら、そうしたところで遊んだ後に少しばかり歩いて吉野駅に向かうというのも良さそうです。

吉野に行ってきました 3

高滝から如意輪寺に抜ける

登山道に入ってしばらく登ると、高滝に出ます。ちいさな滝ですが、たいへん美しい景観です。本居宣長も吉野を訪れた際にここを通ったとのこと。『菅笠日記』の該当部分を引用した看板が立っていた。昔から吉野から喜佐谷を通って離宮のあったという宮滝に抜ける街道であったらしく起伏の少ないゆるやかな登り勾配の道が続きます。稚児松地蔵と呼ばれる辺りからは、今度は一転して下りの道が如意輪寺に出るまで続きます。周囲は杉の植林地で、比較的良く手入れされていて、陽も入るし風も通ります。それなりに爽やかですが、やはり植林地というのは面白くない。それに先週後半の暑さの影響か、身体に少し変調をきたしていたこともあってあまり楽しめませんでした。

高滝

高滝

少し急な雨の通り道のような岩場を下りきると再びアスファルトの車道に出ます。そこには如意輪寺の駐車場があって案内に從って進むとお寺がありました。南朝勅願寺・小楠公遺髪奉納の地ということで、格式の高い、私のような不敬の輩が足を踏み入れるのも憚れるような所かと少々訝しく思っていました。境内に近づくと子どもの声がします。どうやら遠足で来ているようで、ちょうどお昼の時間帯で集まって弁当を食べるところでした。小さくこじんまりしたお寺で、子どもがかまわず走り回っていますし、庫裏というか休憩所のようなところでは土産物が売られていました。つまり普通の地元のお寺という雰囲気でなんだか安心しました。ここもそうですし、川上村とか十津川村とか南朝の関わりで尊皇思想の根付いた土地柄と言われています。そうした遺構のいくつかも訪れました。いずれも居丈高な、為にするような妙な政治的な装いがありません。いわばこの地域の風土とか民間信仰のような自然なものになっているのでしょうか。

如意輪寺本堂。横で子どもがお弁当を食べている。

如意輪寺本堂。横の木陰で子どもがお弁当を食べている。