ダイアトーン P−610MB

四国にお住まいの方から、新しい仕事の依頼をいただきました。

こちらのスピーカーキャビネットです。

ダイアトーン P-610用バスレフキャビネット

ダイアトーン P-610用バスレフキャビネット

残念ながら、このダイアトーン・P-610というスピーカーユニットが、20年近く前の復刻版を最後に生産を終了しており、もう仕事として作ることもないと思っておりました。それでも一応ユニットを前面から落としこむ穴のための治具なども保管してあります。念の為お客さん自身がお持ちのユニットをペアで送ってもらいました。こちらは復刻版で、私が持っていたオリジナルのものとはエッジなど若干違うところがあるのですが、懐かしく、かつそれを通り越した新鮮さを感じます。

四国のお客さんから送っていただいたダイアトーン P610MB

四国のお客さんから送っていただいたダイアトーン P-610MB

年をとるのは嫌なことです。良いことなんてありません。いや、まんざら悪くもないとか言うのは、たいていは自分に対する言い訳か同じ世代同士のなぐさめ合いのどちらかだと思います。それでもひとつだけ、50も半ばを過ぎて良かったなと思うことがあります。それは、妙なハッタリやおかしなプライドとかから多少は自由になり、実質を楽しめるようになったことです。身の丈にあったとか言うと、なんだか卑屈な響きがありますが、つまらないことに拘泥するよりも、スマートに遊びたい。それは、残された時間は既に有限だということが、どこか意識の傍らにあるからかなと思ったりします。

このダイアトーンのユニットは昔から名機と言われてきたのですが、質実で付加価値を付けるためだけの装飾や過剰仕様を排した姿は爽快さすら感じさせます。郡山の工場で40年以上作りこまれてきた丁寧で確実な作りも良い。もう本当いうと10KHz以上の音なんて聞こえないのだし、50Hzなんて地鳴りのようなものは、そもそも音楽を聴くのに必要なかったのです。ああ、これからは、他のものはみんな処分してこれで美空ひばりや、ブラームスの歌曲や、バッハの無伴奏チェロ組曲やらを静かに聴きたいなとしみじみ思いました。