油台に関する記事では、私がそれをしない事と、ネット上の主流とも言える安易な油台紹介記事に対応する意味もあって、多少なりとネガティブな論調になってしまいました。そうしたネガティブな言辞を弄していると、それを発している自分自身の言葉や気持ちが荒んできます。気分を変える意味でも、鉋台に関する提案というか、私自身の試行を紹介します。油台に関する記事でも取り上げた刃口埋めの件です。ここでは、簡便木口埋め法とでもしておきます。
前にも書きましたが、私は寸四以上のサイズの平鉋では、刃口埋めは薄板をはめ込む方法で行っています。その理由は、鉋の台は定規であり、定盤でもあるわけで、極力それに木理を交差させる形でストレスを与えたくないという事です。詳しくはまた別記事にします。別に、この方式に限らないのですが、こうした刃口埋めの要点は、埋めた後の刃口開けにあります。埋める作業自体は、やり方で手間と難易度の差は多少ありますが、取り敢えず木工に携わっている人なら誰でも出来ます。ただ、刃口開けの作業は、相当慎重に行わないと、思ったよりも刃口を狭く出来なかったりして、何をしているのかになりかねません。紹介する方法は、そうした失敗を繰り返してきた私が、たどり着いた刃口開けを比較的簡単に出来る方法・手順です。ちょうど針葉樹を削る鉋の刃口が少し広くなってきたので、それを例に行います。
まずは、埋める木を用意します。材は、台と同じ白樫が結局一番良いと思います。私は、以前の仕事の関係で比較的目の通った良質のブビンガの端材がたくさんありますので、それを使っています。画像のように、木口が下端に出るように埋めます。埋木の厚みや深さは、薄いほうが見た目はきれいですし、浅い方が木理の交差によるストレスも減ります。ただし、その分、木口勝手の材自体の強度は弱くなりますし、嵌め合いの精度が悪いとむくんだり歪んだりして上手く着かなくなります。まあ実用上は、埋木の幅は多少広くなっても問題はありません。むしろ、刃口や下端全体に負担のかかる狭い框材を削ったり、角面を取ったりする用途に使う場合は、広めに取ったほうが下端の強度の補強にもなると思います。その辺りの事は、鉋サイズや用途により柔軟に考えれば良いと思います。
まずは、鉋を実際に削れる状態にします(刃を出す)。その鉋の刃先に用意した埋木材を密着させます。鋭利に研いだ7Hなどの硬い鉛筆で穴の墨線を罫書きます。
鉛筆で罫書いた墨線上に軽く鑿を入れて、仕上げ墨とします。こうした寸六の台の場合、2寸の鑿がピッタリと合います。
ハンドルーターかトリマーで、下穴を掘ります。深さの基準が決まるだけでも機械作業のありがたさを感じます。埋木(穴)の端部は蟻型にします。こうような片面が開放された形状の加工では、これが当たり前と思うようにしましょう。特に、この埋め木の場合は、何度も埋め直す事が前提になります。充分な強度を保持しながら、必要が生じた場合は軽く外せなくてはなりません。接着剤に頼っては後々ややこしくなります。その意味でも、蟻型に加工する必要があります。最後は、画像にある鎬鑿、左右の蟻型鑿で仕上げます。こうした道具は、蟻型の加工をする場合必須ですが、多分市販はされていないと思います。自分の蟻の角度を決めて、自分で作ります。接着剤は、通常の木工ボンドで軽めに着けます。嵌め合いが固すぎると、埋め木が薄く木口使いの場合、刃口方向にむくれてきますので慎重に行います。
こうして、再び下端を整えると、作業が精確になされていれば刃先線と埋木の下端が同一線状に来ることになります。それで、自分が想定した鉋屑の厚みに合わせて刃口を開ければよろしい。最後に薄板に番手の大きいペーパーを貼ったもので仕上げると、屑の出もスムーズになると思います。
このやり方の良い点は刃口開けの基準がはっきりしているため、作業がやりやすく簡単である点です。加えて、木端返しが2段になり、実際に屑が当たる面が極小となるため屑が詰まるなどのドラブルも減ります。
一方、このやり方の短所は、通常の木端返しに角度がついている場合に比べて、台の修正をした時の刃口の開きが広くなる点です。それが気なる場合は、最初に鉛筆で取った墨から、刃口側にずらして加工墨(鑿を立てる)を取ります。その分、刃口を開ける面がひろくなりますし、木端返しも広くなりますが、下端修正による刃口の広がりは抑えられます。なんなら1枚刃鉋のように、仕込み勾配と木端返しの角度を合わせて、台直しによる刃口の広がり自体を抑えることも可能です。その場合、裏(押え)との関係が出てきますが、実際に効いている木端返しが極小なので、案外実用になるかもしれません(私は試していません)。