トチの小箱

仕事では今、小さな箱を作っています。あるものを入れるために依頼されたもので、315mm✕180mm、高さ120mmほどです。一つで良いのですが、段取りに比べて実作業の手間はそう変わらないので、材料さえあれば展示会用などにこうしたものは二つ以上同時に作ったりします。

製作中のトチの箱の被せ蓋

製作中のトチの箱の被せ蓋

今回は、手持ちのトチを使っています。被せ蓋作りにします。画像はその蓋の部分です。細かい縮杢の入った材料で、はじめは拭漆で仕上げるつもりでしたが、削ってみるとクサレと云われるトチ特有の青い筋が意匠的にもそれなりに面白そうです。表はオイル仕上げにして、蓋の裏と台の部分を本堅地に色漆にしようかと思います。今、試していることをさっそく仕事に使ってみるわけです。色は黒がまあ普通ですが、一つは朱にしてみます。蓋を取った時に漆の朱が現れるなんて面白そう。美空ひばりの歌で、髪のみだれに手をやれば赤い蹴出しが風に舞うというのがあったなあ。そのノリだとしましょう。私、あの歌好きです。「津軽のふるさと」と同じくらい好きです。

縮杢にクサレのアオ

縮杢にクサレのアオ

留の部分は、直方体に欠きとってサネ状に角材をかまして接着しています。裏側から布を着せるのでこれで充分かと判断しました。もちろん、イモ着けよりは多少は接着面が広がりますし、イモと違って接合部分の基準が出来るのでまぎれが少ないという利点もあります。箱の蓋ですし、構造的な強度が要求されるものでないし、ビスケットでいいじゃないかとも言われそうです。そちらのほうが強度の点でも、あるいは有利かもしれません。しかし、別のところでも書きましたが(剣留工作と導突鋸)、木を組むのにビスケットジョイントを使うというのは、木工屋にとって麻薬のようなものだと思っています。敷居の低さという意味では、今なら脱法ドラッグかタバコのようなものでしょうか。一度手を出すと、まともな生活が難しくなるように、ちゃんとした仕事が出来なくなります。私はまだ木工をやめたくありませんので、けっしてやりません。安い材料で、安い仕事と割りきってもらえるなら、表から何ヶ所かチキリという材をはめ込むやり方もあります。これもいかにも素人臭いダサイ工作になります。私は好きではありません。

被せ蓋の留部分

被せ蓋の留部分