駒井邸ギャラリーのテーブル

これも自粛期間中の仕事。お施主さんは版画家・駒井哲郎さんのご家族で、亡くなった哲郎さんの作品を展示する和室ギャラリー用の椅子を以前作らせてもらった(→駒井哲郎さんの事 1他)。そこに新たにサイドテーブルを2台。 椅子の時も留意したのは、

  • 駒井さんの作品の邪魔をしない、妙な存在感を主張しない
  • 女性一人でも無理なく移動・運搬が可能
  • 和室に合わせて畳摺をつける
駒井邸ギャラリー

駒井邸ギャラリーのサイドテーブル(大)と椅子
お施主さんがiphoneで撮影

小テーブルと椅子

同じく小テーブルと椅子

材料は椅子に合わせてトネリコ。天板は廃業した材木屋から購入した秋田(だったと思う)のブナの古い板で、購入してからだけでも20年以上になる。これは柾目で幅が480ミリ(尺6寸)もあった。結局、芯付近の部分を除いて仕上がりで435ミリにおさまる。すこしキズはあるが、柾目ということもあってか木取り・木作りをしたあとでも反らない。天然乾燥でもう枯れ切った材で鉋がさくさくと面白いようにきれいにかかる。松本の阿部さん主張しているように、ブナというのは本当は日本が誇るべき良材だったのだ。

テーブルパーツ

テーブルのパーツ
左上に見えるのがCAD図面で、方眼紙が「マンガ」、パーツは左から脚・幕板・吸付桟。

テーブルパーツ

左が吸付桟、右・幕板

テーブルパーツ

左・脚、右・畳摺

パーツ(畳摺)

小テーブルの「コ」の字型の畳摺の接合部

いくら軽く華奢に見えても大人が上に乗って壊れるようでは話にならない。昔なら電球・蛍光灯交換などには当たり前に使われていた。木材は軽く柔らかいといっても常識的な使い方をしていれば材が折れるあるいはは建築的に言う降伏状態になることは滅多とない。家でも家具でも壊れるのは接合部分が抜けるとか破断する場合がほとんどだ。神戸や熊本でいやというほど見てきた。たとえば→益城町2 「木造」にダメ出しする前に色々考えたいとは思った逆に言うと接合部分を横着をせずに組むことで木の軽さや快適さを生かしながら瀟洒でかつ丈夫な家具は作ることができる。それにこの程度の工作は木工機械を使えば誰でも出来る。ようは手間を惜しむか否かだけのことだ。

三方流留(さんぽうながれどめ)

保証なき自粛期間中にやった仕事。堀こたつの枠で、この中に古い朱塗りの漆の卓の天板を落とし込む。例によってなるだけ薄く軽くを念頭に三方流留さんぽうながれどめで組む。材料は製材して40年ほど経つミズメの敷居材で、これが手持ちの最後になる。脚は60ミリ角、框は半割にして24ミリであげている。

三方流留

三方流留

脚を嵌める穴は框の留を組んでから穿つ。組む前に空ければ角のみ盤が使えるが、やったことのある人なら分かると思うがそれでは色々都合が悪い。 この程度のほぞ穴くらい鑿で穿つことをためらうなら職人とか作家とか称するのはやめたほうがよい。仕上がりの画像はまた後日。

穴は框を組んだ後、ノミで穿つ

穴は框を組んだあと、ノミで穿つ

駒井哲郎さんの事 4 ギャラリー椅子の仕様

5ミリのペーパーコードを480x430ミリの座に張る。平織りで下も編んで1脚あたり150メートルを使った。

和室ギャラリーに置く椅子は、畳の床に合わせて畳摺をつけることと座はペーパーコードにすることが条件でした。ペーパーコードで座を張るには椅子の幕板に隅木(関西ではネコと言う)で補強することができません。平織りで釘で折り返すやり方をすれば隅木をつけることも可能ですが、見えない部分とは言え釘をかなりの数打ち付けるやり方はスマートとは言えません。サイド方向ではアームとか畳摺がつくのでラーメン(枠)構造的に組めるので、ヌキで不細工に補強する必要はありませんが、組み方には相応に神経を使います。2枚ホゾにする。部分的に通しホゾにする。ホゾに薬研な溝を彫るといった対応をとりました。今ならこうした椅子でも平気でダボを使い強力な接着剤を使ってよしとするのでしょう。でも私は今「作家」とか「木工家」先生たちに持てはやされている(というか大手メーカーの後追いをしているだけのように見えます。)ああした接着剤を使う気になれないのです。それは、ひとつはそれらの接着剤がいかにも健康に悪そうに思えるのと、さらに10年単位でみた場合の経年変化が保証されていないのではという不信感が消えないからです。

では、どんな接着剤を使っているのかですが、それはまた別の記事にします。

接合は2枚ホゾ、2段ホゾ、通しホゾの組み合わせ。

ホゾに薬研状の溝を彫る。赤鉛筆は写真撮影のため。

PCBはかつては理想の特性を持った絶縁材料とされていました。それにアスベストもかつては理想の断熱材ともてはやされたものです。一時は家を毒の固まりのようなものにした新建材と言われるものもそうです。そうしたことをリアルタイムで経験している私は、こうした新規な化学物質を高性能だからといって使う気になれないのです。それにこうした安易に接着剤に頼ったやり方が、確実に若い「木工家」のスキルを低下させています。われわれロートル世代くらいはこうした安直な傾向に棹さし(あらが)ていったほうが良いと思っています。ちなみに私は今急速に普及しているLEDに関しても強い不信感を持っています。何の根拠もないのですが、生まれた時からLEDによる照明・スマホ他ディスプレイなどに晒されている世代の視力が、ある時期・年代から急速に破壊されるという可能性だって捨て切れません。まあこんなことは、写真に撮られると寿命が縮まるといった類いの杞憂に終わるような気もします。それでも充分には安全性が保証されたとは言えない技術・製品に一斉に切り替える事にはやはりためらいがあります。

駒井邸ギャラリー椅子

駒井邸ギャラリー椅子

駒井哲郎さんの事 2

仕事の打ち合わせもそこそこに、飾られている絵について色々と尋ねました。いずれも立派な絵(版画)ですがどなたの作品でしょうと不躾に聞くと、義父の作品で名前は駒井哲郎とお答えになります。収納庫にある他の作品や画集や著作なども拝見しました。他に細々した質問を繰り返すなかで、ご子息(依頼者の夫)にも加わって頂きました。戦前に東京美術学校(現東京藝大)で学ばれ、晩年には母校の教壇にも立たれていた事。大岡信の最初の作品や大江健三郎や埴谷雄高の装丁や挿絵も手がけられている事。それに残された作品自体が戦後日本の洋版画(エッチング・リト)の唯一無二の高みにそびえている。以前見た『月映』の田中恭吉や藤森静雄・恩地孝四郎の作品と同じ静謐な清々しさを感じました。

駒井哲郎さんが装丁、また挿絵を描いた書籍

もうエディションの付けられた作品はご家族の手元になく、画材や資料の類も世田谷美術館にすべて寄贈してあるそうです。著作権も管理団体に任せてあるとの事ですが、今でも哲郎さんの作品を装丁や挿絵などに使いたいという相談もある。ギャラリーはそうした場としても使いたい意向で、そのためには椅子も必要となるとお考えになったそうです。

駒井邸和室ギャラリー椅子のパーツ。前後脚とアーム・幕板。下は実寸図面。

同パーツ。アーム、前後幕板、背もたれ。こうして実寸図の上に並べてとり合いを確認する。

剣留と面取り

今、定番とも言えるオーディオボードを作っています。框組の工作になりますが、そこで剣留という接合方法を使っています。

剣留を十字に使うと意匠的にも面白いものになります

剣留を十字に使うと意匠的にも面白いものになります

剣留けんどめについては、前にホームページの中で書きました(「剣留と導突鋸」)。そこでも触れたように、私は框組で何かを作る時には剣留を多く使ってきました。本来は、馬乗りとか、面腰と呼ばれるやり方が使われる場合でも、この方法をでやってきました。つまり、剣留がその構造から意味を持つのは、カマボコ面など組まれる面全体に加飾が施される場合です。材の端に面取りや加飾する場合であれば、その部分だけを欠き取ってそれぞれ留でつなぐような馬乗りとか面腰の方が合理的です。

実際に私も最初の頃は、剣留とカマボコ面を併用していました。そのためにいくつかのRの内丸鉋を購入して仕込みました。でも、剣留にカマボコ面というと、何を作っても李朝家具風になってしまってどうも面白くない。それで、剣留に普通の切り面といったいわば変則な工作をしてきました。

馬乗りとか面腰をやらなかったのは、それらの組手が、ホゾ取盤とか傾斜丸鋸盤といった木工機械があれば、誰でもやれてしまう程度の工作だからです。パートのおじさんやおばさんでも、3日もやれば相応に出来てしまうでしょう。こう言ってしまうとお叱りを受けるかもしれませんが、機械作業というのは本来的にそうしたものだと思っています。でないと機械を使う意味がない。私は、自分の仕事に対して手作りなどというインチキなコピーを使った事はありません。ただ、手加工の要素をこうした刻みと呼ばれる作業にもどこか取り入れないと、どうも仕事をしていても面白くない。

下穴はトリマーで決めて鑿で仕上げる

下穴はトリマーで深さを決めて鑿で仕上げる

剣留のメスの欠き取りの加工は、下穴はハンドルーターなどを使うにしろ仕上げは鑿で行うのが一番合理的でしょう。当然墨はシラガキで付けます。この仕事をはじめたばかりの頃に、訓練校の先輩の工房を訪ねた時にその話になりました。先輩氏は、角鑿盤の、箱ノミを、斜めに着けて取るのだとおっしゃっていました。そんなことをするくらいなら、鑿を使ったほうが速いし正確だしとその時も思いましたしたし、実際そうでしょう。 今思うと、その先輩氏の工房はまともに使える鑿がない(研いでない)状態だったのでしょう。そうして結局機械と電動工具に全面的に依存していった例をいくつも見てきました。

一方、オスの剣の方は、丸鋸盤に角度定規などのジグで簡単に切れそうです。ところが、やってみると、どうも上手くいかない。理由は敢えてあげると、機械加工と手工作では、寸法の基準のとリ方から墨の付け方も違う。それを混在させると、中途半端な結果になるというのは、他でもありました。ですから、剣の部分もキチンとシラガキと留定規で墨を付けて、導突鋸でさっと挽くのがよろしい。それに「剣留と導突鋸」でも書きましたが、ゴチャゴチャ丸鋸盤をいじっているより、こちらのほうが早いのです。 写真はその記事から再掲しています。

剣の部分は胴付鋸で挽く

剣の部分は胴付鋸で挽く


墨さえきちんと付けてあれば、きれいに切る事が出来る。

墨さえきちんと付けてあれば、きれいに切る事が出来る。

鉋台の刃口埋め 3 番外 刃口脇の処理について

前の記事の鉋の刃口脇の欠き取りについて、木工界の碩学で稀有の著書・『組手 國政流・江戸指物の美』の著者である阿部藏之さんからメールを頂きました。以下その一部を引用します。

大工職は台直しが頻繁で、(中略)水分のある被削材が多いので、屑だしをよくするために切るようです。深く切ればびびりが出ますね。家具精密木工・鉋台打ち職では無用かと。

また、素材別、業務別で使い勝手や好みも違うので、この辺りの処理の仕方は色々とのことです。これまで、注意して見てこなかったのですが、大工、木型屋、建具屋など機会があればそれぞれの道具を拝見して、その由緒など聞いてみたいものです。 だたそこまで道具にこだわって仕事をしている職人がいかほど残っているかとも思います。

台直し用のジグと専用の台直し鉋。これで刃口を保護しながら脇も削る事が出来る。

台直し用のジグと専用の台直し鉋。これで刃口を保護しながら脇も削る事が出来る。

それで、わたしは現状どう処理しているかと言うと、常用の鉋ではごく薄く欠き取っています。やはり阿部さんもおっしゃるように、仕事中などに台直しを行う場合には、あまりクリティカルな処理はやってられないという感じです。ただ、最後の仕上げ仕事用で寸八とか二寸の鉋など台自体が微妙な調整が必要なものは、上のような治具とそれ専用の台直し鉋を使っています。使い方の説明は不要でしょう。これは、どこかの雑誌か何かで見たものを真似したもので、もちろん私のオリジナルではありません。

鉋台の刃口埋め 2 やってはいけない→「横断型木端埋め法」

「鉋台の刃口埋め 1 簡便木口埋め法」という記事を載せてから、随分と日が経ってしまいました。今回は、それに関連してやってはいけない方法について触れます。

廃業した木型屋からもらった小鉋

廃業した木型屋からもらった小鉋

画像は、この仕事をはじめたばかりの頃に、ある廃業する木型屋さんから道具を分けてもらった時に紛れて入っていた小鉋です。見て分かる通り刃もベタ裏になっていたので、叩いて無理から裏を作って台も直しています。ホゾの面取りなどの荒仕事に使ったりしていました。この鉋の刃口は前の所有者によって埋められていました。とりあえず横断型木端埋め法とでもしておきます。

刃口部分の拡大図

刃口部分の拡大図

こうした刃口埋めのやり方は、現場などでもよく見ました。それにネットでも紹介されています。ご丁寧に動画にしているサイトもあります。このやり方は、丸鋸盤と2〜3分(6〜9ミリ)くらいのカッターがあれば5分もあれば出来ます。きわめて安直な方法ですので、おそらくまねをする人も多いでしょう。しかし、これも油台と同じで、よく考えもしないでやるべきではありません。

鉋の台というのは、よく見るときわめて不安定で微妙な形状をしています。真ん中に大きな甲穴が開けられそこに鉄と鋼の板が相応の固さで打ち込まれています。その上で、台の下端の平面を維持しなくてはなりません。図は、鉋台の断面と下端の模式図です。

鉋台の断面と下端の模式図

鉋台の断面と下端の模式図

これを、上記のように刃口部分を素通しで溝を掘ってしまうと、台にとって一番大事な下端のその中でも基準となるべき刃口部分で、台木の繊維を切断してしまうことになります。しかも、こうした横着をやる人は当然のように木端勝手の材で台木の繊維と直行する方向で埋木をします。不安定になった下端に、さらに乾湿で膨張・収縮をするやっかいな要素を持ち込むことになります。木や道具のことを少しでも分かっている人、まして木工のプロがするべき事ではありません。

それでも、私が上の鉋を頂いた職人のように、忙しい日常の業務の中で、荒仕事用の小鉋などでこうした横着をやってしまうことまで否定はしません。現場や他の人の職場や工房で、こうした物を見かけても、とりたてて何か口にするような野暮でもないつもりです。ただし、こうした横着で不正常な、あえて言うなら間違ったやり方をネットにあげたり、動画にまでして広げようとするのはいかがなものかと思います。不正常の一般化というか、前に取り上げた油台と同じ事がやられている気がします(「鉋は油台にしない方が良い」)。


刃口脇の赤丸部分を欠き取ってきた。

刃口脇の赤丸部分を欠き取ってきた。

さて公正を期すためにも、恥を晒しながら関連する問題を書いておきます。わたしは鉋台の刃口の脇の部分を上の画像の赤い丸のように欠き取ってきました。台直しをした事のある人ならお分かりのように、この部分というのは台直しの時に残りやすいのです。それで、はじめから欠き取っておくと楽なのです。これも良く見るやり方ですが、やはり台の下端の繊維を切ってしまうという意味では同じく問題があります。それでもやるなら極力薄く、また鑿を立てて軽く削る程度にしておくべきでしょう。思い出すのは、もう随分前のことになるのですが、ある現場で一緒になったベテランの大工さんの鉋を拝見させてもらったところ、この部分が欠き取ってありません。その理由を尋ねたところ、困ったように口ごもっていました。別に秘密だから教えないと言う風情でもなく、上手く説明出来ないから困ったという感じでした。その時に自分で色々考えて気づいておくべきだったと、自分の不明を嘆くしかありません。

新しい仕口?

今月27日からのグループ展に向けての仕事。和机の足(右上)と畳摺り(左下)となる。中々に面白く合理的な仕口だと自賛したいが、どうせ先例があるだろうと、『図解 木工の継手と仕口』を見る。類例はなさそうだ。 しかし、似たようなものを、どこかで見たような気もする。

利休机の畳摺りの仕口

利休机の畳摺りの仕口

材はミズナラ。目のつんだ古い良材。

材はミズナラ。目のつんだ古い良材。