木の仕事展IN東海2014 まとめ3 栃厨子

栃厨子

栃厨子

今回展示した栃厨子とちのずしは、すべて古材および手持ちの材で作りました。その内訳は以下のようなものです。

天板
30年ほど前京都に住んでいた頃、大型ゴミの中から見つけた板
側板
解体された昭和初期の大阪の民家の床の間の書院の板
戸・背板
数年前に岐阜の櫻井銘木さんで別の仕事のため買った板の余り
地板
工房齋の齋田さんを通して頂いた古い桐材

天板

この板については、以前書きました(「トチの古材 その1 削り出してみた」)。今回展示した厨子も、そもそも去年制作して展示するつもりで段取りしたのでした。もともと27ミリあった板が、去年の段階でムラ取りと厚み出しをして22ミリになっていました。そのまま1年置いてもほとんど捻れも反りも生じず、枯れ切っていることもありますが、いわゆる性の良い板であったことが分かります。

栃厨子の天板。30年ほど保管した板。端嵌めを施す。

栃厨子の天板。30年ほど保管した板。端嵌めを施す。

昨年のあの記事を書いた段階では、木裏に残った蟻桟の溝を彫り直して文机か座卓の天板にしようと考えていたのですが、もとの構想通り厨子の天板としました。それにあたって蟻桟の溝を埋め木することも考えたのですが、溝を完全に消えるまで削り出して15ミリ厚ほどにするのが見た目も美しい。それでもったいない、申し訳ないと思いつつ断行しました。結局、27→22→15ミリと元の材の半分近くをプレーナー屑、鉋屑としてしまったことになります。ただし、長さ方向、幅方向にはほぼ元の大きさを使いきっています。これに、留の端嵌めを付けます。端嵌めは、反り止め・木口の割れ止めとしての効果は高いし、蟻桟のように不用な出っ張りを生じないという大きな利点があります。ただし、もとの板の収縮との関係で微妙な問題が残ります。私は、板の幅が1尺(約30センチ)程度までのものか、ほぼ枯れ切った板の場合に限り使っています。端嵌めは、戸板でも使っていますが、これは少々問題がありました。これは別に書きます。

樹種についての疑問は、今回も残りました。微妙なひねりや反りを取り、傷を消すために鉋をかけました。同時に、半世紀以上も経った枯れ切ったトチ(側板)、櫻井さんの10年程のトチ(扉、背板)も削ります。トチはもともと柔らかい材ですが、これが枯れて古材となると固く締まってきます。櫻井さんの材でもかなり固くなっています。ところが、この少なくとも私の手元だけで30年ほども枯らした板は、しっとりとした柔らかさ、みずみずしさのようなものさえ保持しています。一鉋かけると適度に乾燥をかけた良質の針葉樹のような質感があります。樹種の特性なのか、あるいはトチだとすると個体差によるのか、やはりよくわかりません。そのあたり、同業者の人ならば、画像の鉋屑を見れば察してもらえるでしょう。

赤っぽい屑が天板。白い屑が戸板の栃

赤っぽい屑が天板。白い屑が戸板の栃

上が天板の屑、逆目を抑えるため裏を効かせているため縮緬状の屑になる。下は戸板のトチ。

上が天板の屑、逆目を抑えるため裏を効かせているので縮緬状の屑になる。下は戸板のトチ。

今回も、櫻井銘木の専務とそのご子息が来場下さいました。私は、滅多と櫻井さんで材料を買うことのない(つまり櫻井さんの材を使うような仕事のない)チンピラ木工屋ですが、この扉と背板は、御社で頂いたものです。と言うと、そうですねと覚えてくれています。それで、天板の樹種について上で書いたような疑問をあげた上で尋ねると、目を見るとトチだと思うが、確かに疑問の点もその通りで、断言しかねるとの事でした。櫻井さんに聞いて分からないのなら、これはもう諦めるしかありません。ちなみに櫻井専務は、もっと以前に買った霧島杉のことも覚えていらっしゃって何に使われましたかときかれた事がありました。さすがにプロです。

側板

側板。一旦割って接ぎ直している。

側板。一旦割って接ぎ直している。

この板は、大阪の古い民家(昭和最初期)を解体する時に頂いてきたものです。床の間の書院の側に使われていました。かなりひどく捻れ反っていました。これを幅方向と厚み方向にそれぞれ2分割(木口から見ると「田」の字に)して、それぞれ歪みを取って、幅方向に再度接ぎ直しました。もともと39ミリ程の板が、12ミリの板2枚となりました。歩留まりという面では、こんなものかと思います。

戸板

戸板など見付部分。戸板の上下に端嵌めを施す。

戸板など見付部分。戸板の上下に端嵌めを施す。

戸板というかそれを含む見附部分全体と背板は、6年前にある仕事のため櫻井銘木さんから購入した板のあまりを使っています。もともとかなりの量のトチの鏡板が必要で、櫻井さんに相談した所、6分か7分ほどに挽いた良い木味の綺麗な板をお持ちで、それを譲ってもらいました。この部分は、仕上がりが9ミリ程になりました。縦使いしています。戸板としてそのまま使うのは薄すぎるのと、反り止め・収縮止めを兼ねて上下に15ミリほどの厚みの端嵌めを入れています。框を組むように左右に同じトチで裏打ちしています。左右の戸はこすれる程ぎりぎりの寸法に削り合わせたのですが、ギャラリーに1日置いたら1ミリ弱程度の隙間が空いてしまいました。反りは押されられているのですが、端嵌めでは6年以上も枯らした板でも収縮を抑えることは出来ないのかと思いました。

丁番

サクラの透かし彫の丁番

サクラの透かし彫の丁番

丁番などの金物ですが、市販のものに正絹磨きをかけたり色々試してみたのですが、結局以前、若い金工作家に作ってもらったものを今回も採用しました。もう15年以上も前に、彼がまだ大阪の工芸高校に在学中に作ってもらったものです。こちらの厨子に使っています。細かいサクラの図案を、糸鋸で抜いた見事なものです。ただ、強度的な問題があって使う機会がなかったのです。