鉋は、油台にしないほうが良い 3

油で滑る鉋台は、とりわけ甲板削りには使えない

油台の実用面での一番の問題は、滑る事です。もともとそのために油を使ったのですから、当たり前の事です。ただ、本来の目的である下端の滑りという点では、使い込んだ普通の鉋台と比較して、特に有用だとも思われないと書きました(→「鉋は、『油台』にしないほうが良い 1」)。 一方、 染み込んだ油は、当然、下端だけでなく、台の側面と上端も滑らせます。これがたちが悪い。普通、右利きの人間は、鉋をかける時左手で鉋身の頭の部分を包み込むように持ちます。他方右手で台の木端(側面)を握ります。鉋身の切れ幅より狭いような細い框材などを削る時は、まあ何とかなります。机の天板のように、広く大きな板を削る時(それこそ手鉋の真骨頂なんですが)には、削る材に指が触れないように浅く台を握らなくてはなりません。その時に台の木端(側面)がツルツル滑るのは、かなりやっかいな事です。

鉋かけとサンディングの違いを模式化するとこうなる

鉋かけとサンディングの違いを模式化するとこうなる

机の天板に鉋をかけるのは、別に薄い鉋屑を出すのが目的ではありません。機械加工された板というのは、一見平滑に仕上がっているように見えて、実は微細な凹凸や歪みがあります。プレーナーのナイフマーク、送りローラーの圧力による凹み、はぎ板の場合は、板の間の目違いもあります。また機械式鉋盤のような回転する刃物でむしり取る加工の場合は、逆目部分や、春材などの比較的軟弱な部分などの切削量が、どうしても大きくなりがちです。また、プレーナーや電動鉋などで、一時に多量の切削加工を行った場合、内部応力のバランスが崩れ、直後は平滑に見えても、少し時間を置くと崩れた応力の反発で、部分的な反りや凹凸が現れます。機械加工の後に、もう一度鉋をかけるというのは、何も薄い鉋屑を出して材を光らせるというよりも、一義的には、こうした微細な凹凸を取って、より平面の精度を上げることにあります。この点は、プロアマ問わず、多くの木工家の間に混同があるように思います。私も長い間、混同しておりました。ちなみに、サンディングというのは、この微細な凹凸をそのままにして、表面の木地を調整していく作業になります。これも勘違いしないほうが良いです。

そうすると、天板などの広い板を削る場合、はじめから薄く長い鉋屑など出ません。また出そうとしてはいけません。凹んだ部分には、無理に押し付けず、凸な部分ではそこを削りながら、その圧力に負けないように、材の面に出来る限り平行に鉋台を滑らせていきます。鉋台をふらつかないようにしっかりホールドしながら、指をセンサーにして、材との接触状態を感じながら、押し付けず、なおかつ切削の圧力に負けないように一定の速度で引ききります。ナイフマークの部分など、サクサクという感じで山の部分が削れていく感触が指に伝わります。細い框材を削る場合と違って、相応の経験の積み重ねが必要となります。

こうした台をしっかりホールドしながら、微妙な板の凹凸に対応していかなくてはならない作業には、木端(側面)の滑りやすい油台は役に立ちません。ちょうどナラのはぎ板を削る仕事をしている時に、仕込んで試してみましたが、使う気になりませんでした。

余談になりますが、この鉋台を板に押し付けるのではなく、平行に移動させて凸な部分だけを削っていく動作の感覚は、刃物研ぎのそれとよく似ているように思います。手首を固めながらも、余分な力を抜き、刃物(台)を砥石(板)に対して一定の角度を保ちながら移動させてゆく。それで、実際に研ぎが上手で、刃物をキチンと平面に研ぐことの出来る人は、鉋かけも上手です。逆に、研ぎの下手な人は、鉋かけも鑿の使い方もダメです。それで、結果的に切れない刃物を使うので、ますます鉋かけや刃物を使う作業から離れていくという循環になるのでしょう。


油で滑る道具を仕事で使うのは危険だと思う

滑るという事に関して、もうひとつ問題があります。鉋を持つ手に油が移るのです。作業をしながら重いナラの天板を入れ替えたり、移動させたりする時に、滑ってイライラとしました。仕事とその段取りによっては、鉋かけの作業と並行して機械作業を行う場合もあります。その場合は、危険ですので手を洗って油を落さなくてはならないと思いました。アマチュアなら、そんなことも関係ないのかもしれません。しかし、仕事をしていると、終日の鉋かけを、3日も4日も続けなくてはならない時もあります。さすがに握力も落ちてきます。そんな時に、ツルツルと滑る油台の鉋など勘弁してくれという感じです。少なくとも仕事で使うべき道具ではないと思いました。

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