京都に納品、三月書房に寄る

日曜日は、京都に納品でした。ここ何年か仕事をいただくリピーターのお客さんです。今回は高座椅子で、宅配便での発送も出来たのですが、毎回お邪魔すると美味しいお酒とか気の利いたお菓子などいただくので、それが楽しみでもあり直接届けました。

こうした椅子は、お寺の法事の際などによく見かけるようになりました。畳とかフローリングで、慣れた座の生活を続けたい。ただ膝の負担が年々気になってくるという人のために、こうした高座椅子の需要は増えるように思います。

幅は、立派な体格のお客さんに合わせて57センチ。頑丈に組んであります。座の高さ、全体の高さは、お客さんんの指示で19センチと35センチ。メイプル、クリ、牛革。

少しだけ世間話をして、道が込まない早いうちに帰らせてもらいました。週末は、いつも新名神の亀山ジャンクションあたりから大変な渋滞になるのです。それでも多少時間があるので、久しぶりに寺町二条の三月書房に寄りました。この書店については、前にも少し書きました。学生の頃から折を見て通っていました。2間間口の小さな町の本屋という風情ですが、その品揃えが独特というか、硬派な主張が感じられます。たとえば、アナーキズム関連の書籍と雑誌、演劇・映画・コミック関係、様々な詩集・歌集・句集、民俗学関係、ファッションではない建築の本、ある種の政治・社会問題の本、など私の知る40余年そのポリシーは変わっていないように思います。私も、京都にいた頃に、白水社の古い版のブレヒト戯曲集とか、ベケットの1冊版の戯曲全集、ちくま文庫の柳田邦男全集の内の何冊か、それと中公文庫の折口信夫全集の何冊か、そんなものを買っていました。それから東京水平社関係とかアナキズム関連の書籍とか、ここでしか見たことのないものも買っていたなあ。あの小さい書店に、柳田とか折口の全集を全巻揃えてあって、それを分売してくれていました。大手書店はもちろん、大学の生協の書店でも後年はそうした対応をしてくれなかったように思います。それで、比較的売れ筋のような本でも、気になった本は、ここで買うようにしていました。

こうした本屋で、様々な本に囲まれ、その背表紙を眺めながら、そして気になった幾冊かを手にして目を通す。図書館とはまた少し違った幸せな時間です。休日ということもあってか、狭い店内に他にも3人のお客さんがいました。麻のシャツをザックリとまとった初老の男性、白いブラウスにデニムのスカートの自然な白髪の40代くらいかと思われる女性、もうひとり普通にジーンズにポロシャツの若い女性は、ずっと詩集のコーナーで、おそらくは誰かの詩集を読みふけっています。

そこへ、何十年か前のゴルフウェアのような妙ないでたちの60代も後半とおぼしき男性が2人入ってきます。あ、あったとかいいながらコミックのコーナーへ。そこでやれ、つげ義春がどうの、ガロが、カウンターカルチャーが云々と立ち話をはじめます。特に大声というわけでもなかったのでしょうが、狭い店内の事、延々と続く軽薄な語りがどうしても耳に入って気が散ります。まあ、これ以上続けるとお決まりの団塊に対する悪口になってしまうのでやめておきます。

話がずれますが、最近こうした自然な白髪の相応の年齢の女性をよく見かけるようになりました。それと、これまで2回ほど、街でベリーショートというか坊主頭の女性を見ました。私はいわゆる居職で、外に出ることが少ないし都会の生活とも無縁なので、知らないだけで、あるいはこういう人たちは増えているのかな。中山千夏さんなどが、その先駆けなのでしょうか。今、中国政府により軟禁状態にあるという劉霞さんもそうですね。いずれも、颯爽としてそれでいてごく自然な自信と意志を醸し出すお姿で、カッコよく素敵だなと思いました。誰が儲かるのか美魔女だのアンチエージングといった市井のキャンペーンに惑わされず、黒髪という根深い価値概念に抗って、今の自身の姿をひたすら肯定することから、ファッションや生き方を考えているのだと思います。ただ、それは頭ではわかっても、実際に一歩踏み出すには大変な勇気が必要でしょう。あれもはやりなのか、オッサンたちがショボい顎鬚を伸ばすのとは違います(例の加計某など、ネズミ小僧にしか見えません)。店内で、静かに本を探して開くこの白髪の、私にしたらまだ若い女性と、オレだって若い頃はガロなんか読んでいたんだぜとか言いたいだけのオッサンたちを、こうして間近で対比すると嫌になります。彼らと私なんて、傍から見れば同じひとくくりのオッサンです。気をつけたいと思います。

今や、アマゾンで本を買うのは犯罪とは言い過ぎかもしれませんが、グローバリズムに手を貸し、こうした優良な小規模小売店潰しに加担することになるのは確かです。もう本も、なるだけ図書館で借りて買うまいと思っているのですが、納品の時に、ここで買うのならいいだろうと、これもまた自分を合理化する屁理屈のようにも思います。


三月書房で、買った本は写真の3冊。合わせて6,804円で、貧乏自営業者にはかなりの散財になりますが、その本についてはまた別に。

『クレーの天使』 谷川俊太郎
『残(のこん)の月 大道寺将司句集』
『サンチョ・パンサの帰郷』 石原吉郎