ソメイヨシノのテーブルを元の学校に納める

神戸のサクラを先日納品してきました。もともと2本のサクラの植えられていた棟のエントランスに置かれています。生徒さんたちが自由に座ったり、そこで遊んだり出来るようです。

長さは1500ミリ強。2本植えられていた樹から、それぞれ板をとって2枚を合わせた。

長さは1500ミリ強。2本植えられていた樹から、それぞれ板をとって2枚を合わせた。

同じ場所に植えられていた頃のこのサクラの樹の写真の額と小さなテーブルのセットも、同じサクラから作って納めています。

この看板は、講堂ほか校内外4カ所に飾られているそうです。

元の字は、大谷光照氏が、この学校のために書かれたものとの事。

元の字は、大谷光照氏が、この学校のために書かれたものとの事。

納品前に、工房の近くの堤防沿いのサクラの下に置いてみました。昨年は、このテーブルのサクラも、神戸の学校の庭で花をつけていたのだと思うと、不思議な感覚になります。

3分咲き程度の海蔵川のほとりで。

3分咲き程度の海蔵川のほとりで。


今回のサクラは、伐採の時季やその後の保管などひどい状態でした。その分、非常に手間がかかりましたし、丸太の状態の材積から製品の歩留まりは、2割を切っているでしょう。テーブルもベンチも、天板や座板以外の部材は、手持ちのチェリーやミズメなどを使いました。それでも、なんとか望まれる形になりました。材自体の性質は、硬くて粘り強く密で、その点ではヤマサクラと同様です。全国に、今何万本のソメイヨシノが植えられているか分かりませんが、比較的成長・更新も早いと言われています。ソメイヨシノは木工には使えないと思い込まされてきましたが、実際に加工してみると、こうした利用の仕方もあるのではと思います。

校舎の桜をテーブル・ベンチ他にする

昨日は、神戸まで行ってきた。軽トラで新名神→名神→阪高を使って片道3時間ほど。やはり軽トラで日帰りは疲れる。

ある私立高校の校舎の耐震補強工事のため、2本の桜の木を伐らなくてはならなかった。その木を使ってテーブルとか銘板とか記念になるものを残したいとの事だった。長らくその前で入学・卒業などの記念撮影なども行われてきて、多くの卒業生や教職員にとっての思い出深い木であったらしい。伐ったのが梅雨の頃で、それから2ヶ月ほどブルーシートに包んで校庭に転がされていたようだ。条件としてはかなり悪い。割ってもまともな材にならないかもしれないと、ことわった上でやらしてもらうことにした。

私立神戸龍谷高校の伐られた桜

私立神戸龍谷高校の伐られた桜。見事な枝ぶりだが、逆にその分、材にはなりにくいとも言える。
学校側撮影の画像による

2本の丸太を持ち帰って、名古屋の丸ス松井材木店にお願いして製材してもらう。普通の玉ではないため、用途を伝えた上で、鋸の入れ方は松井さんに任せる。それを持ち帰って桟積みして3ヶ月間乾燥させた上で、あらためて人工乾燥をお願いした。それが上がったのが、2月1日。どうにもならないかと思ったが、なんとかそれなりの板が取れた。すぐにも見たいというご希望で、それを積んで神戸に持ち込む。その場で、材の割りふりを提案して決めてもらった。

結果、当初の予定より構想が膨らみ、テーブルが大小2台、ベンチが3脚、銘板が3枚、フレームが1枚となった。板となったものを、ほぼ使い切ることになる。テーブルの脚などは、手持ちのミズメかチェリーを使う。

製材には立ち会った

製材には立ち会った

もともと立っていた校舎の前に板になった桜を持ち込む

もともと立っていた校舎の前に板になった桜を持ち込む

板になっただけで、それを眺めて喜んでいらっしゃる教職員の方々の様子を見ていると、この樹に対する思いの一端は伝わってくる。それはそれで、こちらはあくまでも冷静に切ったり、捨てたり、貼ったりするのが役目と割り切るようにする。

地蔵峠、上谷

昨年の秋までは、立ち枯れていてもなお「山」の門番として矜持と威厳を持って存在している。そんなふうに勝手に思い入れていたトチの木が、この冬の雪には耐えられなかったか、ついに倒れていた。

RICOH GXR S10 少し暗い林地に入ると、この小さなセンサーでは平たい絵になってしまう。

RICOH GXR S10 少し暗い林地に入ると、この小さなセンサーでは平たい絵になってしまう。

異形と言うべきか。もう少し長い時間のスパンで、土に戻るまで見守り続ける強い意志を持った狛犬のようにも思える。あるいは「泣く女」のピカソがキュービズムの手法で描くと、こんな形としてくれるだろうか。

倒れたミズナラのこぶ。変わらずこちらを睨み続ける。GXR S10

倒れたミズナラのこぶ。変わらずこちらを睨み続ける。GXR S10

どうも近辺で遭難があったらしい。峠の手前まで「○○山岳会」と手書きのステッカーのたくさんの車が乗り付けられていた。下山時には、そこに通常の登山客とは違う雰囲気の団体がいて、こちらの歩いたルートを聞かれる。

今年最後の「山」

結局、11月の紅葉の時季には「山」に行けませんでした。展示会も終わり、色々な片付けも終わった今日、いつもの山に行ってきました。私は、冬には山には行かないことにしています。そうすると5月の連休までは雪に閉ざされた山には入れません。

展示会前の追い込み時期から風邪気味で、鼻もつまり、終わってからは左の肩が固まって上がらない様な状態になっていました。それでも、山に入ると足取りは軽く、鼻づまりも取れ、肩の痛みもなくなるから不思議なものです。気分的な問題と、それに穏やかな有酸素運動を相応の時間継続することになるのが良いのかもしれません。

もう、もちろん紅葉の季節はとっくに過ぎています。しかし、今日のような穏やかな晴天の日、冬枯れの明るい森の中を赤茶けた落葉をサクサク踏みしめながらの山歩きは、私は好きです。他の人間に出くわさないのもいい。結局、今日は誰にも会いませんでした。県境の峠の手前で、日差しのあたる沢で体が冷え切る前まで休憩して、そのまま戻ることにしました。別にどこそこの頂上を目指すとかいう山行でもありません。雪に埋もれる前にあのブナ、このナラを今年の最後に見たかった。

冬枯れの「山」

冬枯れの「山」 RICOH GXR A12 28mm

倒木も環境と景色を構成する

倒木も環境と景色を構成する  RICOH GXR A12 28mm


さあ、君のことは道を迷わす魔物のように思っていたが本来道標の役を負っていてくれてたのだ。ひとつ残った枝にはまだ、今年も葉をつけていたようだが、既に幹には山の死神がはびこってしまっている。根玉の辺りは虫に食われ始めている。

雷に打たれたブナはまだ立っている

雷に打たれたブナはまだ立っている RICOH GXR A12 28mm

立ち枯れた、弱った木に着くサルノコシカケ類

立ち枯れた、弱った木に着くサルノコシカケ類。森の命の循環は容赦無い。RICOH GXR A12 28mm


こちらの君は、まだ倒れたまま枝を宙に張り出している。いつまで頑張る。どこまでツッパる。それならば、こちらも君が萎れて朽ちて土に臥すまでずっと見届けたいと思うが、どうもこちらが先にヘタリそうだ。

ミズナラ

ミズナラ RICOH GXR A12 28mm

倒れた主を見守るように、近くに高く通直にのびたサワグルミが2本。ごちらもかなりの老兵のようだ。

倒れたミズナラの近くのサワグルミ

倒れたミズナラの近くのサワグルミ RICOH GXR A12 28mm

更に隣にもう1本。

更に隣にもう1本。 RICOH GXR A12 28mm

「山」に樹を見に行く 5 カツラ

私がこの仕事をはじめた20年ほど前は、抽斗などの内側の側板とか先板の材料といえばカツラが定番とされていました。それで、当然のようにその材料としてカツラを求めましたが、もうその頃は良質のカツラは手に入りにくくなっていました。一度ある偶然で古い柾目の良い材を少量手に入れることが出来たのですが、後はいわゆる性の悪い板目の材ばかりでした。反りや歪みも多く、歩留まりは悪い、木づくりなどの加工も手間がかかる、加工後のくるいも生じやすいなど、良い所はありません。

その頃、インドネシアから入ってきていたアガチスという材が良材が多く、4メートルものの柾目の板がバンドル買いなら立米単価で10万円を切る値段で手に入りました。軽くて加工性もよく、通直で素直な木目の材は、ほとんど抽斗の材として理想的と言ってもよく、当時出回っていたカツラに劣る点はなにもないと思いました。もう、その当時でも木材としてのカツラは枯渇してしまっていたのだと思います。

ちなみに、母親の遺品に嫁入り道具として持ってきたと思われる立派な裁ち台があります。カツラの柾目の一枚板で長さ2,100ミリ、幅500ミリ、厚み36ミリあります。ガキの頃、母親がそれを使って浴衣を縫ったり、あるいは半襟を着けたりしていたのを見たような記憶がありますが、その後はずっと実家の屋根裏に放置されていました。そのせいか少しだけプロペラ状にねじれていますが、大きな反りや木口の割れもなく吸付きさんで嵌められた畳摺りの着いた板足もしっかりしています。少なくとも60年ほど前には、こうした良質のカツラが多少は値がはったかもしれませんが実用品の材として使われていたのです。

最近では、そのアガチスも価格も高騰し、材の質も以前よりは随分悪くなってきました。そこで中国産のキリの集成材などを使っていました。廉価ですが、それなりの物という感じでお薦めできるものではありません。15ミリ厚が定番なのですが、もともと細びきというか定尺を割っていた材が、シーズニングをしている間に12ミリ程になっていた事がありました。

今は、工房齋の齋田さんを通して廃業する桐箱屋さんから譲って頂いた枯れ切ったキリの端材(が、良材です)があるので、しばらくはそれで間に合いそうです。

カツラの巨木 GXR A16

カツラの巨木
RICOH GXR A16

さて、先日近江高島に所用があって出向いたのですが、その時間待ちに山に寄って来ました。そこで、久しぶりに見てきたカツラの巨木です。カツラの巨木というのは、比較的たくさん全国に残されているようですが、いずれもこうしたヒコバエというか根本から分枝したような木が多いように思います。逆に言うと、すっとした木は木材として伐り尽くされてしまったということなんでしょうか。

同じカツラ。モデルは身長187センチ。 GXR A16

同じカツラ。モデルは身長187センチ。
RICOH GXR A16

上の写真は、いつものGXRにA16というズームレンズユニットを付けたものです。倒木の上に置いてセルフタイマーで撮ったのですが、ミラーレス・レンズシャッターだからか、いい加減に置いただけですが特にぶれていません。

「山」に樹を見に行く 4 サワグルミ

サワグルミやオニグルミなどのクルミの仲間は、山の沢筋に多い木ですが、平地の河川敷や中洲などでもよく見られます。かつて住んでいた京都の桂川の中洲にはオニグルミが何ヶ所か自生しておりました。講座で桑名に自転車で通う途中の、東海道の朝明川にかかる橋のたもとの河川敷にも2本のクルミの木がありました。確認はしてないのですが、残念ながらサワグルミだと思います。残念というのは、実を採って食することが出来ないという意味です。オニグルミとサワグルミは葉とか幹だけでは、なかなか判別しにくいのですが、夏に青く丸い実がつけばオニグルミだという事で良いでしょう。細かい事を言えば、小葉の縁に細かい鋸歯があるのがサワグルミということなど色々判別法はあるようです。

サワグルミの群落 このようにまとまって生えているのは珍しいように思います。 GXR A12 28mm

サワグルミの群落
このようにまとまって生えているのは珍しいように思います。
GXR A12 28mm

クルミの類は、先駆樹種の一つ、それもかなり有力なもののようです。沢筋や河川の中や際に多いというのも増水などで流された後に真っ先に侵入してくる樹種ということなのかもしれません。それと、木としての個体の寿命は100年とも150年とも言われています。サワグルミなど、シオジと間違えるような通直なけっこうな樹高のものも見ることもあるので、成長はその分早いのでしょう。それでやがては他の樹種に遷移されていく。クルミの単相林とか大きな群落というのは見たことがありません。

こちらはオニグルミ(たぶん?) GXR A12 50mm

こちらはオニグルミ(たぶん?)
GXR A12 50mm

木工材料としてのクルミ類の位置づけは、

ウォールナット > オニグルミ > サワグルミ

という感じでしょうか。色目(色の濃さ)、重さ、固さも上記の順になります。私は、この仕事を始めた最初の頃、たまたま手に入れたサワグルミを使って小さな棚を作りました。その端材で左勝手の繰り小刀の鞘を作りましたが、今手元にあるのは、それくらいです。妙な固定観念に取りつかれて、その白く軽く柔らかい、穏やかな木目の材を、安物の下駄の材料とか、当時フラッシュの心材として、やはり安く出回っていたファルカタみたいなものくらいに思っていました。ちなみに、そのファルカタも今やカービングなどに良く使われる高級材になりました。

でも、今でもそこそこ資源が残っていそうなこと、成長が速く更新資源としても管理できそうなこと、白く柔らかく、大人しい木理で応用範囲が広そうなこと、など家具木工材料として実は有用なのではと考えています。

「山」に樹を見に行く 3 ミズメ

ミズメについては、以前に書きました(→ミズメ)。本当にサクラによく似ていますが、分類上は科から違っています。

ミズメ

ミズメ GXR A12 50mm

樹皮もサクラにそっくりです。縦に入った傷は獣の爪研ぎの跡かなあ。

ミズメの樹皮

ミズメの樹皮 GXR A12 50mm

そのミズメを使って仕事をしました。訓練校の実習以来、さんざんやった上端留(うわばとめ)五枚組接ぎというものです。 こういう仕事にはカバの類のように粘りがあって固い材が刻みやすいのです。 中でもミズメはその質や見ためもヤマザクラに近い良材です。

上端留五枚組接ぎ

上端留五枚組接ぎ

これで何を作っているかというと、8ミリ厚、800×600のガラスを落としこんで漆定盤にします。自分用です。座り作業用に短い足を付けようとも思いましたが、今後の使い勝手も考えて天板だけにしました。これならテーブルに置いても使えます。この上で漆をヘラでねったり混ぜたり、あるいは漆錆や糊漆・麦漆を練ったりします。前から欲しかったのですが、ようやく作る事が出来ました。

ミズメの枠に8ミリ厚のガラスを落とし込んだ漆定盤

ミズメの枠に8ミリ厚のガラスを落とし込んだ漆定盤

漆定盤細部

漆定盤細部

「山」に樹を見に行く 2 白い花など

先日行った「山」では、深緑の中で白が目につきました。

まずは、ヤマボウシ。ヤマボウシの名は山法師からきているとありますが、そう言えば白い花弁(ガク)が時代劇などの叡山の僧兵のかぶり物のように見えたりします。

ヤマボウシ

ヤマボウシ GXR A12 50mm

続いて、ウツギ。卯の花です。おからの事を卯の花と言ったりしますが、なんとなくそう見えてくるから思い込みというのは恐ろしい。木工屋にとっては木釘の材料として知られています。ウツギは山と言わず平地の際にもよく見られるので、頂戴して自分で木釘を作ろうといつも思うのですが、ヨキとか鋸とかを持参していないので、いまだにかないません。

ウツギの花(卯の花)

ウツギの花(卯の花) GXR A12 50mm

あと車で走っていても目につくのはマタタビの花と葉です。これも山の際に自生するツル性の植物で、この時期には葉を白く塗ったようになります。

マタタビの花と葉

マタタビの花と葉 GXR A16 55.5mm(85mm相当)

変わったところでは、モリアオガエルの卵。画像では杉の木にたくさん産み付けられています。切り株に産み付けられているのは初めて見ました。枯死したか伐られたかで他に適当な木がなかったのでしょう。

杉の木に産み付けられたモリアオガエルの卵

杉の木に産み付けられたモリアオガエルの卵

切り株に産み付けられたモリアオガエルの卵

切り株に産み付けられたモリアオガエルの卵