スケルトン・アンプ その1

木工屋が、ボール盤を持ちだして鉄に穴を開けています。仕事というよりも、あらかた道楽なんですが、スケルトン・シリーズのひとつで、スケルトン・アンプとでもいいましょうか。来月末の展示会でお披露目いたします。

ホールソーで穴を開ける

ホールソーで穴を開ける

このボール盤は、30年ほど前にホームセンターで買ったものですが、久しぶりに使ってみると回転軸の精度は出ていないし、その軸と定盤の鉛直は出ていないしというバッタ物です。一応TOSHIBAブランドの台湾製です。まだ台湾製=粗悪品、中国製=論外というイメージを私自身も持っていた時代で、デフレ前のバブルの只中で、こんなものでも2万円ほどしたと思います。それでも、その当時はハンドドリルに比べて、作業精度・効率も格段に向上して喜んだものでした。

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これにホールソーを着けて最大・直径50ミリの穴を1.6ミリの鋼板に開けるのですが、定盤に木をボルトで固定して鉋で鉛直を出し直す。それにクランプで板を固定して、切削油をドボドボかけながら、まあそこそこきれいな穴が開きました。この穴のいくつかに嵌めこまれるものが、下のもの。これも20年以上も死蔵してきました。元々はイングランドで、私の出生と同じ時期つまり1950年代頃か、あるいはもっとずっと古くに作られたものだと思います。なにかの因果で、最後は私の物欲でこんな所に流れ着いたのすが、擬人化して、もし心があるならば山椒太夫にさらわれた安寿と厨子王のような気分でしょう。2本は、用途は違いますが同じシリーズのいわば兄弟のような真空管になります。かの姉弟のように素性いやしからぬ麗しい姿をしています。

Mullard EL38とCV378/GZ37

Mullard ブランドの出力管・EL38と整流管・CV378/GZ37

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まずは、紙の上で色々遊んでみる。

ダイアトーン P−610MB

四国にお住まいの方から、新しい仕事の依頼をいただきました。

こちらのスピーカーキャビネットです。

ダイアトーン P-610用バスレフキャビネット

ダイアトーン P-610用バスレフキャビネット

残念ながら、このダイアトーン・P-610というスピーカーユニットが、20年近く前の復刻版を最後に生産を終了しており、もう仕事として作ることもないと思っておりました。それでも一応ユニットを前面から落としこむ穴のための治具なども保管してあります。念の為お客さん自身がお持ちのユニットをペアで送ってもらいました。こちらは復刻版で、私が持っていたオリジナルのものとはエッジなど若干違うところがあるのですが、懐かしく、かつそれを通り越した新鮮さを感じます。

四国のお客さんから送っていただいたダイアトーン P610MB

四国のお客さんから送っていただいたダイアトーン P-610MB

年をとるのは嫌なことです。良いことなんてありません。いや、まんざら悪くもないとか言うのは、たいていは自分に対する言い訳か同じ世代同士のなぐさめ合いのどちらかだと思います。それでもひとつだけ、50も半ばを過ぎて良かったなと思うことがあります。それは、妙なハッタリやおかしなプライドとかから多少は自由になり、実質を楽しめるようになったことです。身の丈にあったとか言うと、なんだか卑屈な響きがありますが、つまらないことに拘泥するよりも、スマートに遊びたい。それは、残された時間は既に有限だということが、どこか意識の傍らにあるからかなと思ったりします。

このダイアトーンのユニットは昔から名機と言われてきたのですが、質実で付加価値を付けるためだけの装飾や過剰仕様を排した姿は爽快さすら感じさせます。郡山の工場で40年以上作りこまれてきた丁寧で確実な作りも良い。もう本当いうと10KHz以上の音なんて聞こえないのだし、50Hzなんて地鳴りのようなものは、そもそも音楽を聴くのに必要なかったのです。ああ、これからは、他のものはみんな処分してこれで美空ひばりや、ブラームスの歌曲や、バッハの無伴奏チェロ組曲やらを静かに聴きたいなとしみじみ思いました。

 

モーツァルトの「ソナタ九番」


ジーパンで自転車をこぐモーツァルト見かけたソナタ九番の中

昨日の朝日歌壇に載った歌です。選者の馬場あき子さんによると中学生の作のようです。

モーツァルトのソナタ9番というと、最近は通し番号の順が少し変わって、昔8番イ短調のソナタと言っていたK310を指すようです。今の中学生が言うソナタ9番というとやはりそれなんでしょうね。我々の世代でモーツァルトのイ短調のソナタといえば、かのディヌ・リパッティが悪性リンパ腫で亡くなる直前のライブ録音の壮絶な・・・云々となるのですが、そうか、なんの先入観もない中学生が聞くとジーパンに自転車のモーツァルトが見えるのですね。うん、羨ましい。もし、旧9番のK311 の事だとしても、と思ってあらためて聞いてみました。それはそれで素直な楽しい連想だと思いました。

もうね、小林秀雄の『モオツァルト』なんて読まないほうが、普通に楽しく音楽を聞くことができると思います。

ディドの哀歌

2年前の6月、名古屋伏見の電気文化会館ザ・コンサートホールでのリサイタルで、私の好きなクリスティーネ・シェーファーが歌いました。

When I am laid in earth,
May my wrongs create
No trouble in thy breast,
Remember me, but ah! forget my fate.

私が死んで葬られる時
やらかした過ちの数々が、
あなたを煩わす事がないように
思い出してね、でも最期のことは忘れてしまって。

(拙訳です)

ヘンリー・パーセルのオペラの中のアリアです(『ディドの哀歌』)。リサイタルの前半の最後の曲でした。最後の節” Remember me, but ah! forget my fate.が切々と繰り返されます。

これは、認知症の人の残された人への最後の言葉ではないかとその時聴いていて思いました。もちろん劇での設定は全然違うのですが、そんなことはどうでもよろしい。今、講座で老化とか認知症の事をあらためて勉強していて、またその事を思い出しました。思い出してね!でも好きこのんでボケたわけでない、その” fate “は忘れて欲しい。

2012年6月30日 クリスティーネ・シェーファー リサイタル

やぎさんゆうびん

ぞうさんとやぎさんつれてこどもらをひゃくねんあそばせまどさんゆけり

 

昨日の朝日歌壇に掲載された鈴木さんという人の歌です。

まどみちおさんが詩を書き、團伊玖磨が曲をつけた『やぎさんゆうびん』は、こどもに限らず楽しくも心躍る日本のミニマムミュージックの傑作だと思います。もう何年も前になりますが、FMで若いミュージシャンが、この歌を延々繰り返し歌う演奏を聞いてその元のCDを買ってしまいました。

雨の動物園には、ゾウはいましたが、ヤギはいませんでした。今はいるとすれば、むしろ牧場なんでしょうか。骨折で2度母親が入院した郊外の病院には、併設する介護施設のアニマルセラピー用として「動物園」がありました。そこにはヤギがいましたし、思い出すと工房のある海蔵川の北側の堤防は今は桜の名所のようになっていますが、昔はその際でヤギが飼われていました。その「やぎさん」に食べて欲しい古い「おてがみ」がまだ一束。実際には古いイングの酸化鉄やら紙自体に添加剤が含まれているようで、お腹にはよくないでしょうね。

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桜 2014年4月2日

 

平面バッフルスピーカーを鳴らしています

第12回木のある暮らし展が本日より始まりました。昨日、搬入に行ってまいりました。

展示会場の平面バッフルスピーカーシステム

展示会場の平面バッフルスピーカーシステム。バッフルは、クリの無垢板ですが、よく焼けていい感じです。間のラックもクリですが随分焼け方が違います。

今回は、何年かぶりに平面バッフルスピーカーシステムを展示しました。もちろん、実際に聞いていただくことも出来ます。着けてあるスピーカーユニットは、パイオニア PAX-12A、なんと1952年発売のパイオニアの初代同軸ユニットです。中古市場はもちろん、ネットオークションでもほとんど見かけない60年以上も前のこのスピーカーの音が私は大好きで、これで古いスピーカーあさり(ジャンク!フルレンジ・スピーカーユニットの楽しみ)をやめてしまいました。もう7〜8年は、ずっとこのスピーカーで音楽を聞いています。

ナラ・テーブルとアームチェア

ナラ・テーブルとアームチェア

前に、私の作ったゆったり座ることの出来る椅子とテーブルも用意してあります。ナラの一枚板に拭漆をかけてあります。お好きなディスクを持ち込んで楽しんで下さい。在廊のスタッフには伝えておきますが、ろくたるのブログに書いてあったとおっしゃってもらえば結構です。アンプも、これもアクセスの多い300Bシングル・モノラルパワーアンプを聞いていただこうと梱包までしていたのですが、昨日の搬入のあわただしさの中で、持ち込むのを忘れていました。最終日・9日(日)の朝には持って行こうと考えています。

今度もチェリーの仕事です

仕事のBGMには、歌物は歌詞に神経がいってしまって集中が途切れることもあります。そんな場合は、リズムの安定した優しい曲がいい。このタチアナ・ニコラーエワのバッハの『平均律クラビーア曲集』(VICC-60607~08)を聞いていると、グレン・グールドは、彼女のパクリだったのではないかと思えてきます。

ニコラーエワのバッハ・『平均律クラビーア曲集』

ニコラーエワのバッハ・『平均律クラビーア曲集』

引き続きアメリカン・ブラックチェリーを使った仕事です。ここまで、木取りと木作りが終わると、もう半分以上は仕事が終わった気分になります。

ブラックチェリーのテレビボードのパーツ

ブラックチェリーのテレビボードのパーツ

ブラームスの歌曲はいいなあ

それでも、ブラームスが好きなのはなんでかな。くどいな、とかもっと普通にやってくれれば良いのにとか思いながら、押し付けがましさを感じないからかなと思ったりします。それで聞いていると自然と優しい気持ちになれる。なんだか人に馴染めず、その輪とか仲間内に普通に入っていけない「ぼっち」な私の味方かもしれない。もちろんきれいなメロディーもたくさんあります。

いつの間にか、バッハよりもモーツァルトよりもブラームスのディスクの数が多くなっています。今、気に入っているのはハイペリオンから出ている歌曲全集です。なぜか4枚出てからリリースが暫く途切れてしまっているのが残念です。特に、1枚目のキルヒシュラーガーさんと、3枚目のサイモン・ボードさんのディスクが、本当に素敵で思い出しては、繰り返し聞いています。サイモン・ボードさんは、イギリスの若手のテノールらしいですが目立ったキャリアはなく、私も全然知りませんでしたが、甘く瑞々しい、しかも抑制の聞いた知的な雰囲気ただよう美声です。このディスクでは、作品33などのドイツ民謡由来の曲をいくつか歌っています。それに有名な「子守唄」もあります。ブラームスのメロディアスで優しい曲想に、ぴったりとふさわしく聞き惚れてしまいます。ブラームスってイマイチ取っ付きにくいとか、あの仰々しさがどうもと敬遠している人などに、特にお薦めです。

ハイペリオンのブラームス歌曲全集の4枚

ハイペリオンのブラームス歌曲全集の4枚