欅の拭漆の納品

今日は、津市のお客様から依頼の欅の床板に拭漆を施した物を納品。もともとウレタン塗装がされていたのを矧がしての拭漆であった。さすがにウレタンの表面強度、浸透力は強く塗装をはがすのに苦労した。最後は残るウレタンは吸い込み防止の下地塗装と割り切る。依頼を受けて一年余、早くに終わっていたのだが納品のタイミングを逸して今日になった。お手持ちの家具調こたつ風の座卓の天板としてそのままお使いになる。一部木端の部分の傷を補修したがたいへん木味のよい板だ。お詫びの意味もあって口頭の見積額の八掛けの納品伝表を持って行ったが、その口頭の見積もり金額を覚えて下さっていていつでも良いと言ったのは私だからと満額を支払って頂く。最近仕事も見積もりもめっきり減っているので助かる。

拭漆欅床板


納品の日(だけ)はエビスビールと決めている。あてはさっと作った鶏レバー甘辛煮。昨日返品交換で届いたばかりの読谷山焼の器に盛る。

ヱビスビールと鶏レバー甘辛煮のあて

スワンもどきの制作開始

詳細図の作成で難渋していたスワンもどきの制作にようやく入る。今回はタイプ1のものにする。連休の間、蕎麦打ち修行の後ずっと聞いていて、おそらくはオリジナルの雰囲気を持っているのはホーンの形状や定数にほぼ準じたタイプ2の方だろうと思った。24畳の工房で大きな音で鳴らすと威力を発揮するのだが、10畳和室に持ち込むとボンボンした中低音、ざらついたボーカルなどアラが目立つ。バラック作りのガタガタのエンクロージャーのせいとも思うのだが、タイプ1ではそれも目立たず要するに好きな音なのだ。

スワンもどきパーツ

構想やスケッチ、それに制作図面段階の組み手設計などではいつも優柔不断でとんでもなく時間がかかってしまう。その割にいつもごく普通のものになってしまうのだが。ただし実際の制作に入ると私は比較的手の早い方(雑?)だと思っている。今日も矧ぎも含めた材の木取りと面出しをほぼ終える。

第62回正倉院展

2010正倉院展チケット

今年も正倉院展に行ってきました。今年の出展の目玉はなんと言っても螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんごげんびわ)で、チケットや目録の表紙にも使われています。

しかし、今回の展示で個人的に興味深かったのはいくつかの道具です。それもよくあるような儀式のための様式化され装飾されたものではなく、実際に使われた物のようです。展示や目録の解説には以下のようにあります。

宝庫には工匠具が六種類二十一点、及び部材二点が伝えられている。いずれも実用品と考えられ、使用による摩滅が著しいものが少なくない。

実際に展示されていたのは、(やりがんな)が5点、(やすり)が3点、刀子(とうす)が2点、(きり)が1点。以上が木工具と思われる物。いずれも鉄(鋼?)の刃に木製の柄がすげられている。

他に、打鑽(うちぎり)が6点、 多賀禰(たがね)が、4点。これらはいずれも(たがね)であり、現在も彫金や皮革の彫刻や装飾に用いられているものと同様の使われ方をしたらしい。なかには頭部がまくれ返ったものもあり、実際に叩いて使われたのがわかる。 角製工具(つのせいこうぐ)というものもあって、これは布や革の墨付けに使われたのではと解説されていた。これも和裁のヘラのようなものではないかと思った。そういえば母親が使っていたヘラも水牛の角か象牙製だったように思う。 斧柄(おのえ)というものもあったが、どういう使われ方をしたのか詳細は不明とのこと。

正倉院展目録から工匠具のページ

これらの道具は、いずれも現在の同種のものと比べて質素というか粗末なものだ。(やりがんな)とされているのも、大きさから言って生反り(なまぞり)のようなものだし、据えられた柄も無造作に削られている。仕込んだ部分から割れが入って、そこを針金のような物を巻いて補強してあるものもある。工匠に失礼だが、親方!やってますなあという感じでほほ笑ましい。御物の性質や他の収蔵品の質から考えても、特に粗末な道具を集めたとは考えにくい。逆に実際に使われたものの中からむしろ最良のものが献納されたと考えるのが自然だ。

さて、そこから展示されている工芸品の御物のすばらしく精緻で繊細な完成度とこうした工具類の粗末さとの落差に愕然とせざるをえない。たとえば、今回展示されている蘇芳地彩絵箱(すおうじさいえのはこ)や、黒柿蘇芳染金絵長花形机(くろがきすおうきんえのちょうはながたき)のようなものを、やはり展示されているこのような粗末な道具で作ったとは私などにはにわかには信じがたいほどだ。当然、残された物とは別に一品一品に合わせた様々な道具や治具を作り、色々な工夫や技を駆使して作っていったのだろうが、その過程も私の想像の域をはるかに超えたものだろうと思う。


さて、振り返って今我々が使っている道具を見ると、一見簡素ではあるがなんと精緻で合理的でよく出来た物かと思います。機会をあらためて書きたいと思いますが、鋸などは良い姿勢で力を抜いて鋸刃の重みだけでゆっくり挽いていくと、自然にまっすぐ垂直に切れていきます。良くできた鑿をちゃんと研いであれば上から叩けば、自然とまっすぐ孔を穿っていきます。そうして墨に沿って少しずつ歩かせていけば、下手な角鑿よりもきれいな穴が開けられます。こうしたすぐれた日本の木工具というのは、今から30年か40年ほど前にもう完成されてしまったように思います。しかし今でもちゃんとした道具屋に行けば良い道具が相応の値段で手に入ります。そうした道具を使いながらまともな仕事が出来ないのは、その使い手たる自分が箸にも棒にもかからないヘタレに過ぎないからです。それをさておいて、道具の些細な薀蓄の世界に逃げたり、すぐにやたら高価で便利そうな電動工具や木工機械を欲しがったりするのは、やはりどこかおかしい。

この10余年、毎年どんなに忙しくてもこれだけは欠かさず出向いて見るようにしています。昨年もあらためて調べると父親の亡くなる三日前の10月30日に行っています。その父親が寝たきりの状態で病院からの退去を迫られていて、その対応で私自身もかなり強いストレスのかかっていた時期でした。その後のドタバタもあってすっかり忘れていたのですが、その後に寄った興福寺北円堂の特別公開のデジカメ画像がパソコンに残っていて、そのデータ(Exif)により思い出しました。

興福寺北円堂

欠かさず拝観するのは、もちろんこうした御物・宝物を見て何かの参考にするとかパクるといった目的ではありません。もうまったく世界が違います。むしろ今回、天平の工匠の道具を見てあらためて感じたのですが、自分の下手さ加減や自分の作った物のつまらなさを自覚するよい機会になっています。別に自虐趣味はありませんからもう少し言うと、それでも何か物を自分で作って生きたいと思う自分がいて、そして使って喜んでくれてお金をだしてくれる人がいる。それはもうなんと幸せなことなんだろうと自分のよって立つ場所がハッキリするような気がするのだと思います。

私の知る範囲でも木工を始め金工や陶芸など工芸やクラフトと呼ばれる世界に携わる人はたくさんいます。しかし毎年とは言いませんが木工家とか自称したり言われたりしている人で、この正倉院展に行く、行ったと言う人を知りません。まあ皆さん忙しいからでしょうがもったいないことだと思います。同業他社(者)の展示会に行くくらいならこちらも一度は行ってみると良いと思います。そもそもパクリの対象にならないし、この天平の工匠の仕事を見てしまうと自分の事を(たくみ)と称したり、自分の作ったものを作品と呼んだりするような恥ずかしいことが出来なくなるかもしれません。でも若い人たちは、つまらないことに拘泥する必要はありません。もう今年は会期もおしまいになってしまいますが、来年でも良いので是非行ってみることをお奨めします。

暮らしに寄り添う木工展2010

私の出展物一部の画像です。

ナラ・ライティングデスク

クリ・AVボードの出展画像

クリ卓袱台

出展の小物

小物の類は、最近は作っていなかったのですが暮らしに寄り添うという展示のテーマもあって作ってみました。手前の小さな物から、メープルのティー・メジャースプーンチェリーの小皿ナラのトレー(刳り盆)、奥はレッドオークのカトラリーボックスです。スプーンと小皿は、31日のワークショップで作ってもらえます。

イアーマフ

暫くの間、大型の木工機械を触っていなかったせいか100Vの電動工具をわずかの時間使っているだけで耳鳴りがするようになった。これは、加齢のせいもあるかもしれない。寒暖の変化から花粉まで外的な環境に対する耐性がこの3〜4年とみに弱くなっている気がする。この仕事を始めたころは、一日中木工機械を回していても平気だった。

それで、工業用・保護用のイアーマフを買ってみた。ペルターというスウェーデンの会社のもの。残念ながらこの種の保護用品・安全用品などは、ヨーロッパ製のものが良い。産業とそれに対する労働運動の長い歴史のゆえか、安全とか労災防止という意識自体がずいぶん違うように感じる。

イアーマフ(耳当て)

使用の当たっては、遮断周波数帯域の関係で耳栓などとの併用が望ましいとされているのでそうしている。その効果は高い。かなりの時間、手押し鉋盤とか自動送り鉋盤などの騒音の大きい機械を使用し続けても耳鳴りなど生じない。その分、疲労感も少ない。

ちなみに、私はこの仕事に就く前は鉄鋼関係に勤ていた。事務屋ではあったが現場持ちの部署であって、就業中は作業服であったし現場に出るときは安全帽・安全靴の着用が当然義務づけられていた。就業前はそろってラジオ体操をし、御安全に!とか、(労災)ゼロで行こう!というのが、業界の共通の挨拶となっていた。その感覚が多少なりとも染み付いていたので、仕事を辞めて訓練校の木工科に入校して、安全帽や脚絆はもちろん安全靴さえ着用しない事に最初は驚きました。なんだか裸で仕事をしているような不自然で不安な気持で作業をしたのを覚えています。

木工機械

預けていた木工機械を運び直す。重なる運搬などでガタガタの状態で、メンテに時間がかかりそうだ。ついでに定規や口板などもすべて新しく作り直す。この桑原のプレーナーの主軸駆動用のモーターは5.5KWもあった。

桑原のプレーナー

AVボード

年末に見に来てもらったAVボードを東京に送る。間口1800ミリもあるものだが、ヤマト運輸で安く運送してくれる。もちろん相応にきちんと梱包せねばならいが、荷物の扱いではヤマト運輸が一番丁寧で確実だと思う。この10余年、送り主としても受取人としても一度のトラブルもない。

AV_boad